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夏だから怪談 その2

 

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(投稿カテゴリーを新しくしました。
 ショートストーリーのお話形式でつづる「創作実話」
 現実かもしれない。創作かもしれない。そんな風に楽しんでいただけたら幸いです。
 仮なのでもっと良い名前が思いついたら、カテゴリー名変更します)





底知れぬ闇を、どこまでも落ちていく。

気づくと、何も見えないはずの視界が変わっていた。
宇宙空間を思わせるトンネル。
赤、黄色、青、白などの色とりどりの光。

光は、トンネルの中心に向かい、帯を引きながら吸い込まれていく。
あたかもワープか、ブラックホールのように、
形あるものも無いものも、全てがものすごい勢いで飲み込まれていった。
それはとても綺麗で、不可思議な光景だった。

光彩と共に、私もその激流に飲みこまれた。
ぐにょんぐにょんと方向も分からず移動しながら。
はじき出されるようにトンネルを抜け、今度はどんどん落下していく。

しばらくすると、ふいに目の前が青白く暗い世界に変わり、 ぽん、と地面に落ちた。



隣には2人の見知らぬ女性がいた。
いつの間に一緒になったのか。

不思議なことに、その場にいる者は私を含め、みな一様に裸だった。
(臨死体験などで、色とりどりの光のトンネルを通ったとか、死後の世界は全員裸だとか聞いたことがあるが、そこも、同じようなものだろうか?)

2人の女性はどこか陰気で無愛想で、 とても言葉をかわす気になれなかった。
しかも私を見る目に、敵意がこもっている。
見るというより、睨むと言った方が近い。

この人達は誰だ?
なんでこんなところに?

自分の身に突然起こった状況が把握できず、 とにかくただ怖いという気持ちでいっぱいだった。

私はわけがわからないまま、とにかく周囲を見渡した。
地面があるということは、ここは「どこか」として存在するということだ。

辺りは月明かりほどの明るさしかない。
それでもかろうじてわかったのは、
湿った土とわずかに生えた草、 一軒の、古く汚れたあばら家。
他に見えるのは、家の脇に横倒しになって積まれた丸太。
漆喰の壁に立てかけてある、長い柄の先に大きな刃をつけた3本の鎌。
家の向こう側は、闇が深くて何も見えなかった。
というより、よく見なかったのであまり覚えていない。
とにかくそれらの全てが、いびつでひどく禍々しい印象を放っていた。
 

痛い。

突然、両腕を何かに捕まれた。
隣にいた2人の女たちだった。
陰鬱な表情のまま、一言も口を開くことなく、彼女たちは私をものすごい力で引きずり始めた。
私は始め、この女の人たちも何かの理由で落ちてきて 、はき出された先で偶然一緒になったのだと思った。
だが実際は、そうではなかった。

ひったてられ、半ば無理やりのように小屋へ入れられた。
この荒涼とした不可解の土地で、唯一、人の存在を感じさせる人工物だったが、私は少しもホッとするような感情は覚えなかった。

小屋の中には、5~6人の男たちがたむろしていた。
やはり全員裸だった。

室内に明かりなどない。
ここはなんの建物なのだろう。
積まれたワラや木材とおぼしき物の上に、思い思いのていでくつろいでいるようだった。
薄暗いせいなのか、肌は青とも緑ともつかない不気味な色をしている。
彼らは一瞬闖入者に驚いたようだったが、すぐに凶悪で残忍そうな顔にとってかわり、下品な笑いが広がった。


ぐい、と押し出された。
私は勢いあまって、ザラザラする木の床に膝をついてしまった。
口の中に苦い味が広がっていき、鼓動が早足にリズムをうちはじめた。
なぜだろう。気持ち悪い。
ここにいてはいけない。
とてつもなく、不吉な予感がする。


すっと両脇にいた2人の女が動いた。
男達に近づき取り入って、あっという間に彼らの仲間になってしまった。
いや、初めから、仲間だったのかもしれない。
振り返った女たちが、こちらを見て、初めて嗤ったのだから。


全員の目が、私に集中している。
敵意、または害意を持って。

そのときになって、私はようやく危機的状況に気づいた。
味方が一人もいない。
ここにいたら危険だ。早く逃げないとダメだ。

そう考えたと同時に、男の一人が動いた。
手には小振りの鎌。
さっきまで、そんなものは無かったはずだ。
そこははっきりと覚えている。
彼らは一様に全裸で、何も手になどしていなかった。

なのに、気づくと今3人の手には、まがまがしく鈍い光を放つそれが、しっかりと握られている。 
 
殺される。
 
本気でそう思った。
体から一気に血の気が引く。

殺される。

男達が近づいてきたのを見て、私はとっさに小屋を飛び出した。
よくも俊敏に体が反応できたと思う。
きっと無意識の行動だったのだろう。
草や砂利をふんで走る視界の端に、追ってきた男の一人が壁の大鎌を手に取るのが見えた。

何故追われているのか。何故殺されようとしているのか。
何一つわからない。
けれど、わかったところで、きっとなんの意味もないのだろう。
理由があるのなら、とっくに彼らが口にしているのだろうから。

とにかく小屋から離れなければ。
全速力で走ろうとしたが、焦りと恐怖で、何度も足がもつれた。
おかげでたった数十メートルしか走らないうちに、私は彼らに追いつかれてしまった。
 


取り囲まれ、鎌が振り下ろされる。
あまりの恐怖で、叫ぶことも出来なかった。
とっさに手近なものを掴み、身を守ろうとしたような気もするが、よく覚えていない。
薄暗い夜の闇と、草と冷たい土。
とうてい防ぎきれるようなものではなかったハズだ。

もうダメだ。
鈍く光る鎌が目の前まで迫る。
その瞬間、出し抜けに目が覚めた。


……。


「目が覚めた」という表現が正しいかは分からない。
私はまだ眠りについていなかったはずだったし、時計を見たら、時間もほとんど経っていなかった。

未だにあれが、眠っていて見た夢かそうでないのか、判別つかない。
時がたって、入眠時の幻覚は「ナルコレプシー」と呼ばれ、医学的に解説されているのだと知った。
けれどその幻覚は、ああも幻想と不可思議と臨場感をともなって、複雑に展開するものなのだろうか。
もう20年近くも前のことだし、今となっては、どちらでも良い。

時の経過と共に、あのときの恐怖も映像も、どんどん記憶からこぼれおち、今ではほとんど覚えていなかった。
たまたま荷物を整理していた時、あの頃に書き留めておいたこの記事を見つけて、ようやっと思い出したのだ。
そういえば、10年くらい前になるだろうか。
週末の夜、賑わっていた店の一角で、友だちに初めてこの話をした時のことだ。
気づいたら、私たちの周りの座席だけ、キレイに半円を描いたように、客がいなくなっていた。

まあ楽しく飲んでいるときに、隣からこんな不気味な話が漏れ聞こえてきたら、酒もまずくなるというものだ。
店を変えたくもなるのかもしれない。
もしかしたら、店にとっては営業妨害で悪いことをしてしまったかもしれない。


その夢からしばらくのち。
当時の関係者とも交流が耐え、平和で騒がしい日常が戻ってきた。
バカみたいに笑って、本当にバカをやって、たまらなく愛しくて稚拙な日々。
もう二度と戻ることはないだろう、眩しい夏の日差しのような、十代の終わり。

私のこの体験は、20代へと移り変わるめまぐるしさで、記憶の彼方へと押しやられていった。


けれど。

ただ1つ。

たった1つだけ、忘れることのできないものがある。
壊れたレコードのように、ブツブツと途切れ、耳に焼き付いて離れない。
それは、小屋に引きずり込まれた私を見て、男が放った言葉。


「久しぶりに人間が落ちてきた」
 



あれは「どこ」で、彼らは「何」だったのだろうか。

今でもこの世界のどこかで、人間の獲物が落ちてくるのを、待っているのだろうか。







●前日譚●

この不快な体験の前日のことだ。
この日の夜も、実は似たような体験をしている。


翌日ほどの強烈さはなかったが、金縛りを経てトンネルを抜けたあと、全面が幾何学模様のおかしな空間に出た。
上も下も右も左も、視界すべてが幾何学模様に輝いていた。
七色にしたクリスマスの『ルミナリエ』のイルミネーションを球体の内側に貼り付け、自分がその中央に浮いている様子を想像してみて欲しい。
幻想的で、美しくて、…そして、閉じていた。

その空間の中で、私は女の声を聞いた。
『落ちなさい』

その後、何かに引っ張られ幾何学の空間を抜け、やはり暗闇を落ちた。
どこまでも落ちた。

ついた先は、何も無い土と岩の荒野だった。
夕日に包まれるグランドキャニオンと言えば美しいが、たとえるなら「水の無い賽の河原」のようだった。

一面を覆う黒い雲の隙間から、ところどころ真っ赤な空が覗いている。
この日は、それ以上のことはなかった。

大量の寝汗とともに、意識が覚醒したのだ。


あれは本番前の小手調べ、あるいはマーキングのようなものだったのではないかと、今では思う。

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Posted by  tsgmi on 07.2014 幻想現実譚   0 comments   0 trackback


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Author: tsgmi
はぐれ魔女。
あるいは、矛盾の錬金術師。
本業は編集デザイン。
たまに、ないると名乗ります。

ときにカード鑑定してみたり、天然石やハーブをつかって妖しげな術をしてみたり。
たいていワタシのほうが右往左往しています。何か手助けが必要な際は、遠慮無くお声がけを。

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