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夢枕にたつ猫


昨年の初めに亡くなった、猫の話です。

その子はとてもとても人懐っこく、いたずらが大好きで、シャイでコワがりで、なによりご飯が大好きでした。
それはもう「食欲の権化」のような子でした。
なにせお腹空いたときには鳴き声まで
「ごあーん。ごあん」
「ごーあーーーーーん!にゃ、にょ!!」

みたいに鳴く子でしたからね。

あちらの世界になかなかなじめなかったのか、こちらを離れがたかったのか。
彼が亡くなった昨年のお正月から秋くらいまで、何度も遊びにやって来ては、夢の中でワタシに甘えて帰っていきました。

夢って、不可思議じゃないですか。
一貫性がなくて、脈絡がなくて。
知ってる人が知らない人で、知らない人が当たり前に友人だったりして。
生きてても、死んでても。
いるはずのない人がいても、まったく不思議に思わない。
気づいた次の瞬間には場面が移りかわり、設定が端から破綻していく、そんなふうに。

けれど彼との夢だけは、違ったのです。
彼が出てくる時は、必ずこう認識しているのです。
「ああ、亡くなったニャンコが遊びに来た」

相方さんが亡くなったあと、何度も彼の夢を見ています。
が、当たり前のように日常に溶け込んでる夢や、亡くなったと知っている夢、まちまちです。

けれどニャンコが出てくる時は一度だってそんな曖昧な夢はありませんでした。
一緒に遊びながら、必ず「亡くなったあの子が遊びにきた」と感じているのです。
あの子はもういない。
ワタシの心にそう上書きされてしまったからでしょうか。
そう考えるのが妥当でしょうけれど、ワタシはあの子が本当に遊びに来ているのだろうと、そういう風に納得しています。
そういうことにしておきます。


はじめは数日おきに来ていたものが、週一くらいになり、隔週くらいになり、月一になり。
彼もワタシも、ゆっくり時間をかけて、ひそやかな「お互いのいない世界」での交流を続けていきました。
そうして去年の秋ごろ。
彼はぱったりと、現れなくなりました。

向こうの世界に馴染んだのかな。逝くべきところへゆけたのかな。

寂しくも喜ばしく思っていましたところ。


今年の春くらいから、また月一くらいで遊びに来るようになりました。
相変わらずの甘ったれで、なつっこくて、いたずらが大好き。
ただの夢かもしれないけれど、それでもやっぱり嬉しくて、
起きたらたまに「今日はよく来たね」なんて写真に声をかけたりしていました。


先日も、ひと月ぶりくらいに、彼が夢の中に出てきました。
夢の中で一緒に遊んでいるうちに半分目が覚めてきて、
「お水とご飯、たくさん食べていきなねー」
なんて寝ぼけながらモゴモゴと声をかけているうちに、また眠ってしまいました。

それからいつものように起き、慌ただしく支度し、仕事に行き。
一日を終え、ひといきついて寝室に戻って来て。
写真たてが視界に入ったので、声をかけようと近づいて…

気づきました。

昨晩、お水いれてたコップを洗って…

なんだかんだ自分の用事をこなしているうちに…

えっと…そういえば…


新しいお水出すの、忘れてた!!!!!!!!!

すっかり、さっぱり!!!!!!




「お水とご飯、たくさん食べてきなね」

じゃないよ!!!!!
なに寝ぼけたこと言ってんだワタシのうすらとんちきー!


彼は腎臓の病気で、体の中に水分を溜めておけなくて。
飲んだはしからオシッコで出てしまい、いつもいつも渇いていました。
何か月も点滴で水分を補給して、どうにか命をつないでいたのです。

そんな彼に、お水は何よりも大事なのでした。



遊びに来たんじゃなかった。

いや、遊びにも来たんだろうけど。

遊んでったし。


そうだけどそうじゃない。

ア、アイツ…

「水出てねーよ!!!!」


って言いにきたんだ(゚Д゚;)








いや、うん、ごめん。ほんとごめん!!




ある日の出来事。そんなお話。


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Posted by  tsgmi on 15.2017 幻想現実譚   1 comments

探しものはナンですか…


夏なので、先日体験した、コワイ話でも披露します。



先週のある日、ワタシは会社のセキュリティカードを落とした。

え? やばいじゃん!

そうなの。やばいの。

気づいたのは、仕事を終え、後片付けをしていたとき。
うちのセキュリティカードは、会社が発行しているものではなく、ビル単位で管理されている。
ビルのオーナーさんから、階ごとに配布されるもので、歴代の会社や退職した人から引き継がれている。
何人もの手を渡ってきたカードは、半分折れ曲がりかけ、雑にあつかえば2つに割れてしまいそう。
ワタシは折れてしまわないよう、100均で買ったプラスチックの硬質名札ケース(首からかける入館証みたいなアレ)に入れて使っている。
ついでに自宅のカギもキーチェーンで一緒にくっつけてある。

で、カバンを見たら、名札ケースはあるものの、かんじんの中身がない。
カラ。すっかすか。向こう側が透けて見えてるYO!
いつからウチのセキュリティカードは、スケルトンになったんだ?
(ちなみに、自宅のカギはついてました)

財布を出す時に、中で抜けちゃったかしら。
他の荷物で押し出されたのかな??

一縷の望みをかけてカバンを漁ってみたが、影も形もスケルトン。

おおおおおおおおお落とした。これはどう考えても落とした。

帰るのが最後でなかったことだけが、せめてもの救い。
戸締まりできる人が、ほかにいて良かった。
でなかったら、だれか出社してくる翌日の昼近くまで、会社で夜を明かすところだった!

落としたとしたら、外だ。じゃあ、どこで?

家を出るときか。バスや電車で定期券を出し入れした時か。
一番可能性あるとしたら、カギ本体を出した時。家の前。
カギをかけながら、何かの拍子でケースから滑り落ちたのかもしれない。

けれど、私は、その可能性を半分も信じていなかった。

なぜなら。
心当たりがあったからだ。
道中、歩いている時、太ももに何かが当たって落ちた気がした。

立ち止まって、足下を見たけれど、とくに何もなかった。
ちょっと不思議に思いながら、気のせいだったのかと、また歩き出した。

たぶん、アレだー! 確実にアレだーーー!!

なんで! あのとき! もっと! ちゃんと!
地面を見渡さなかったのか!!
ああああああああしかも、それがどこだったか思い出せない!!!
ワタシのポンコツ記憶力ー!!!!


ひとつだけ、確実に言えることがある。

家の前では絶対になかった。それだけは覚えている。

道中で落としたのならば、見つかる可能性は低いだろう。
もし踏まれでもしていたら、確実におシャカだ。
親切な誰かが道路脇によけてくれているか、どこかに届けてくれているか。
落とした場所がわからないから、見当も付かない。

何度見直しても、カバンにないものは、ない。
重苦しい後悔とともに、思考をぐるぐるさせながら会社をあとにした。


落とした記憶があるってことは、家の前の可能性は低い。
見つかる可能性は低いけれど、帰り道、できるだけ探しながら帰ろう。


そう思いつつも、ワタシは縁ある神様に、心底からお願いした。
めっちゃ盛大に神頼みした。
(※姐さんズとゆかいな精霊たちではない)


「うおおおおお、カギ! 見つかり! ます! ように!!!

 神様、お願いぷりーーーず!!!


そうこうしながらの帰り道。

小姑おばちゃんにも聞いてみた。
四六時中ワタシに貼り付いてるなら、ワタシの行動を覚えているハズ!
ていうか、覚えててほしい!
ふだん、まったく会話なんてしないけれど、この際、使える者は親でも精霊でもなんでも使いたい…!

「おばちゃん、カギがどこにあるか知ってる!?」
「心配しなくても、ちゃんと家の前にあるわよ( ´_ゝ`)」

「うわあああん。あれがどこだったか、思い出せないよー」
「家の前にあるの。帰ればわかるわよ」
「いや絶対、あのときだって!だって太ももに当たったもんー!」
「だから家にあるって言ってるでしょ、バカな子ね!!!!(#゚Д゚)」
「ほんとにそうだったら、どんなにいいかと思うけどさ、けどさー!」
「人の話聞きなさいよ!!!」

自分から聞いておいてなんだけれど、小姑おばちゃんの言葉をまったく信じてなかった。
なにせ「何かが落ちた」という心当たりがある。
それが解消されない以上、素直に信じられないのである。

終バスを降りて、目を皿のようにして地面を(・・ )( ・・)しながら帰った。
家々の明かりもまばらな深夜。
視野がせまく視力の弱いワタシの目視は、微妙であった。

懐中電灯で徘徊するのもキケンだし、翌日明るくなってからのほうが得策かも知れない。
そう考えながら、重い足取りで階段をのぼり、自宅ドアの前までやってくる。

おばさんの言うとおり、セキュリティカードは、落ちていた。
気づいた誰かが置いたのか、目立たぬよう、隅にひっそりと避けてあった。

「だから言ったじゃない。ホントに人の話聞かないんだか$%&’=*>!(`Д´)」



あ、うん、えっと、うん、ごめん…。

え、何がコワイ話なのかって?

もしカードが見つかってなかったら、再発行だよ!
あのカード、再発行に、1万6千円くらいかかるんだよ!

いちまん、ろく、せん、Yen!!!!!


コワイでしょ!!????

もちろんセキュリティ関連もコワイですハイ。
見つからなかったら、ほうぼうに迷惑かけるところだった。
危なかった。ほんと危なかった。

玄関前で、ワタシが落としただけ


という単純な話。
なのかもしれないけれど、
神頼みした手前、ちゃんとお礼もしておきましたですよ。


ところで。
無事に見つかって、良かった良かったなわけですが。

じゃあ、
「太ももに当たって落ちた何か」は、
いったい、なんだったのだろうね?


一度も「家の前に落ちている」「家で落としたのよ」とは言わなかった、小姑おばさん。

落ちた何かは、どこへ行ったのか。
カードとは別の物だったのか。
そもそも本当に何かが落ちたのか。
あのとき感じて立ち止まった違和感は、なんだったのか。



今のところ、身の回りの持ち物で、他になくなっている物はない。



Posted by  tsgmi on 08.2016 幻想現実譚   2 comments

一期一会


しまった。またやってしまった。

何度目か、いや、もう何百度目かの失敗だ。
途中下車した駅の改札を出て、うっかり反対側の出口の階段を下りてしまったのだ。
周囲の景色をざっと見渡す。
ひさしから一歩踏み出せば、ジリジリと肌を刺すトゲのように強い陽光。
むあっとアスファルトから立ちのぼる熱気と、雑踏。
行き交う自動車や店のガラス、看板、乱反射。
見覚えのある、洒落た駅ビル。
何度見ても、明らかに、目的地と反対側の風景だ。
私は昔から、場所と場所の間がつながらない。見えている風景と、行きたい先をつなぐ位置情報、つまり点と点を結ぶべき線がとぎれてしまう。
覚えたはずの目印が、景色と関連した情報として記憶野から上がってこないのだ。
記憶力が悪い、ぼーっと歩いている、と言われればそうなのかもしれない。
いや、ぼーっと生きている、と言うべきか。

はぁ。
熱気にまみれるようにため息を吐いて、きびすを返した。
今降りてきた階段を再びのぼり、カツカツとサンダルの音を響かせながら、さっき出たばかりの改札前を通りすぎる。
もっと静かに歩きたいものだが、ゴムのすり減った私のサンダルは、駅のコンコースに踏み出すたびに、否応なく硬質な音を響かせる。
なんだか挑戦的な足音だ。 


「あのすみません」
弱々しい声が聞こえた。
一瞬、自分のことだと思わなくて、1mくらい通り過ぎてしまった。
歩きながら振り返ってみた。
そこには、手に白い杖を持った50代くらいの男性がいた。
通り過ぎてしまった私の靴音を聞いて、息を吐きながら少し肩を落としていた。
その前を、何人もの人間が、私より静かな足音で通り過ぎていく。


「どうしました?」
迷わずにとって返して声をかけた。
目の前から降ってきた私の声に気づいた男性は、ほっとしたように笑顔になった。なぜか私もつられてほっとした。
「○○デパートとは反対のローソンのほうに行きたいのですが…出口が分からなくて。あの、階段まで連れてっていただければ…」

なんという偶然だろう。
私の目的地は、まさにそのローソンだ。
なんとも不純な動機だが、期間限定で展開されている、とあるコラボグッズが欲しかったのだ。
地元駅周辺にそのコンビニがないため、わざわざいつもより数本早い電車に乗って、出社前に途中下車をしたのだった。

この駅は複数の路線が交わる大きなターミナル駅だ。
中央改札口で降りた左右の出口の先にローソンがあり、○○デパート側の店舗は繁華街の中にあって駅から一番近い。
私の行こうとしていたのは、駅から5分程度歩いた、ちょっと寂れた住宅街のほうだった。
以前、同じように限定コラボグッズが発売されたとき、都心の店舗はほぼ買い尽くされていたけれど、こちらの店舗には、まだ在庫が多く残っていたのだ。
話をもどすがここはターミナル駅なだけあって、改札を出てからも、幾つかの路線の乗り換え口があるし、出口までに段差もある。
改札のすぐ正面は若者に人気のファッションブランドがたくさんはいった大きな駅ビルに直結している。
全盲の人にとっては、複雑な上、非常に距離感のつかみにくい構造になっていた。というか、そうなのだろうと思った。
 
二つ返事でOKすると、その人は、ちょっとすまなそうに言った。
「すみません、今から電車に乗るところでしたよね」
「いえ、ちょうど私、そのローソンに行くところだったんですよ。だからそこまでご一緒します」
罪悪感や負い目など持って欲しくなくて、私は努めて明るい声を出した。


けれど、さて。こういう時は、どう誘導すればいいのだろう。手を引けばいいだろうか。

全盲の方と接したことのない私は、ちょっと迷った。
けれどすぐに思い出す。
以前まだ私が少しでもまっとうな人間でいなければと、ある種の義務と希望にもがきながら、OLをしていた頃だ。
同じ課になった障碍者の子から、目の見えない人に対して、たとえ手助けだとしてもいきなり触ってはいけないと教わった。
どんな理由であれ、見知らぬ、そして予期せぬ状態で、突然腕や体に触れられるのは怖いのだと。
私もそれは理解できた。
その子自身は目を患っていたわけではなかったのだけれど、一番年が近く仲の良かった私に、障碍者が集まる学校に通っていた頃のことをよく話してくれたのだ。

そんなことを思い出しつつ、手を触れてもいいかと口を開きかけたちょうどその時、男性が言った。
「肩に手を置いてもいいですか」

なるほど。肩か。それは知らなかった。
確かに手を引くよりずっと安定するし、雑踏の中でも、距離が近い分、声も届きやすい。
快く承諾すると、男性の手が遠慮がちに肩に乗った。
声をかけながら、うながすようにゆっくりと一歩を踏み出す。

「そのまま、今向いている方向にまっすぐ行けば降り口があります。歩きますね」
「はい、ありがとうございます」
「歩く速度はこれくらいで大丈夫ですか? 速くないですか?」
「これくらいで丁度いいです」
「ここが降り口です。あ、エスカレーターより階段がいいですよね…?」
「ああ、大丈夫ですよ。エスカレーターでも降りられます」
(そうなのか。慣れてるのかな)えと、じゃあ、あと3歩でエスカレータです」
「はい。ありがとうございます。すみません」
「いえいえ、ちょうどローソンに行くとこだったので、本当にタイミング良かったです。…あ、エスカレータ終わります」
「はい」


その人は、私の歩調に合わせ慣れたようにエスカレータに踏み出し、両足をそろえ、きれいにエスカレーターの終点をこなした。
初めての経験に、私のほうが内心ドキドキしていたかもしれない。

「歩くのは、車道側じゃないほうがいいですよね」
「あ、はい、そうですね」
「じゃあ、逆側になるので、一瞬はなれますね」
「あ、でも…できれば、ローソンのある側の通りがいいです。団地はそっち側ですので」
「ああ、でしたら、道を渡らないとですね。ちょっと待ってくださいね、自転車きてます…はい、渡りますね」


正直、上手に誘導できているのか分からない。
わからないから、自分だったら聞きたいだろう情報を思い浮かべ、こんな感じで、今はどのあたりを歩いているのか、周りの状況を交えつつ説明して歩いた。
道すがら、彼は月に一度、ボランティアに参加するために、とある団地に通っていると語った。
その団地が、ローソンの先にあるのだそうだ。


そうこうしているうちに、ローソンに着いてしまった。
すると彼は、何度もお礼を言いながら、ここまで来ればあとは一人で大丈夫だからと、にこやかに歩き出した。
私は歩き去っていく男性の背中を、はらはらしながらしばらくの間、見送っていた。
それから、会社に遅れるギリギリの時間になっていることに気づき、手早く買い物をすませ、駅へと戻った。

でも、駅へと帰る道すがら、かなり後悔した。
駅から離れているので表通りほどではないとはいえ、車の往来もそこそこあるし、店の前に停車している搬入車なども多い。
自転車も多く通るし、目の見える私にだって、ずっと直線で進むのはちょっと難しい。
私の会社は、出社時間が決まっているとはいえ、割とゆるい会社だ。
一応の規定として、フレックス制に対するコアタイムのようなものはあるけれど、各自の仕事の裁量で、そのあたりはわりと融通が利く。
急いで行かなければいけないほど、仕事が詰まっていたわけでもない。むしろ詰まるのは、たいがい夜に集中するのだから。

遅刻したとしても、きっと1・2本電車を遅らす程度だ。
コンビニからそれほど遠くなかったのだから、団地まで、いやせめてこの通りを抜けるまでだけでも、一緒に行けば良かった。
そうでないなら、どうしてあの時、道行くだれかに声をかけ、案内を引き継がなかったのだろうか。

私はいつも判断が遅い。気がつくのが遅い。あとからあとから、後悔ばかりだ。
彼がいつから通っているのかは聞かなかったが、月に一度来ているくらいなのだから、通りの状況などもわかっているだろうし、問題なく歩ける範囲なのだろう。
だから私の憂いも後悔も、ただの良心の呵責で、欺瞞なのかもしれない。ただの心配症なのかもしれない。
それはきっと一生わからない。私は、この日、この場を歩く彼ではないのだから。


その日だけの、途中下車。
たまたま間違えて降りた出口。
引き返しすことになった時間のロス。
硬質の床に響く、うるさいサンダルの音。

それら全てがあったから、全盲の男性の前を過ぎて、声をかけられた。

小さな小さな偶然が重なったがゆえの、ほんのひとときの時間の共有。

男性がどこに住んでいて、何をしているのかは知らない。
私が再び彼を案内することは、もう二度とないだろう。
あと半月もすれば、私はこの地を離れてしまうのだから。



私の世界と、彼の世界が、今後交わる可能性は、ないに等しい。
もっというならば、その日、その駅ですれ違った、全ての人間と私の時間が交差する可能性だって、ないに等しいのだ。


違う時間を送り、私の知らない場所を行き、違うものを見て、あるいは感じて、経験しているだろう人たち。

一期一会。
違う世界を生きる人間同士が邂逅する、奇跡のような偶然。


いろんなことに鈍い私には、上手な誘導も、うまい会話もできないけれど。
私の知らない世界に触れさせてくれる、そんな一瞬の出会いがとても好きだ。





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Posted by  tsgmi on 13.2014 幻想現実譚   0 comments   0 trackback

夏だから怪談 その2

 

dummy.gif

(投稿カテゴリーを新しくしました。
 ショートストーリーのお話形式でつづる「創作実話」
 現実かもしれない。創作かもしれない。そんな風に楽しんでいただけたら幸いです。
 仮なのでもっと良い名前が思いついたら、カテゴリー名変更します)





底知れぬ闇を、どこまでも落ちていく。

気づくと、何も見えないはずの視界が変わっていた。
宇宙空間を思わせるトンネル。
赤、黄色、青、白などの色とりどりの光。

光は、トンネルの中心に向かい、帯を引きながら吸い込まれていく。
あたかもワープか、ブラックホールのように、
形あるものも無いものも、全てがものすごい勢いで飲み込まれていった。
それはとても綺麗で、不可思議な光景だった。

光彩と共に、私もその激流に飲みこまれた。
ぐにょんぐにょんと方向も分からず移動しながら。
はじき出されるようにトンネルを抜け、今度はどんどん落下していく。

しばらくすると、ふいに目の前が青白く暗い世界に変わり、 ぽん、と地面に落ちた。



隣には2人の見知らぬ女性がいた。
いつの間に一緒になったのか。

不思議なことに、その場にいる者は私を含め、みな一様に裸だった。
(臨死体験などで、色とりどりの光のトンネルを通ったとか、死後の世界は全員裸だとか聞いたことがあるが、そこも、同じようなものだろうか?)

2人の女性はどこか陰気で無愛想で、 とても言葉をかわす気になれなかった。
しかも私を見る目に、敵意がこもっている。
見るというより、睨むと言った方が近い。

この人達は誰だ?
なんでこんなところに?

自分の身に突然起こった状況が把握できず、 とにかくただ怖いという気持ちでいっぱいだった。

私はわけがわからないまま、とにかく周囲を見渡した。
地面があるということは、ここは「どこか」として存在するということだ。

辺りは月明かりほどの明るさしかない。
それでもかろうじてわかったのは、
湿った土とわずかに生えた草、 一軒の、古く汚れたあばら家。
他に見えるのは、家の脇に横倒しになって積まれた丸太。
漆喰の壁に立てかけてある、長い柄の先に大きな刃をつけた3本の鎌。
家の向こう側は、闇が深くて何も見えなかった。
というより、よく見なかったのであまり覚えていない。
とにかくそれらの全てが、いびつでひどく禍々しい印象を放っていた。
 

痛い。

突然、両腕を何かに捕まれた。
隣にいた2人の女たちだった。
陰鬱な表情のまま、一言も口を開くことなく、彼女たちは私をものすごい力で引きずり始めた。
私は始め、この女の人たちも何かの理由で落ちてきて 、はき出された先で偶然一緒になったのだと思った。
だが実際は、そうではなかった。

ひったてられ、半ば無理やりのように小屋へ入れられた。
この荒涼とした不可解の土地で、唯一、人の存在を感じさせる人工物だったが、私は少しもホッとするような感情は覚えなかった。

小屋の中には、5~6人の男たちがたむろしていた。
やはり全員裸だった。

室内に明かりなどない。
ここはなんの建物なのだろう。
積まれたワラや木材とおぼしき物の上に、思い思いのていでくつろいでいるようだった。
薄暗いせいなのか、肌は青とも緑ともつかない不気味な色をしている。
彼らは一瞬闖入者に驚いたようだったが、すぐに凶悪で残忍そうな顔にとってかわり、下品な笑いが広がった。


ぐい、と押し出された。
私は勢いあまって、ザラザラする木の床に膝をついてしまった。
口の中に苦い味が広がっていき、鼓動が早足にリズムをうちはじめた。
なぜだろう。気持ち悪い。
ここにいてはいけない。
とてつもなく、不吉な予感がする。


すっと両脇にいた2人の女が動いた。
男達に近づき取り入って、あっという間に彼らの仲間になってしまった。
いや、初めから、仲間だったのかもしれない。
振り返った女たちが、こちらを見て、初めて嗤ったのだから。


全員の目が、私に集中している。
敵意、または害意を持って。

そのときになって、私はようやく危機的状況に気づいた。
味方が一人もいない。
ここにいたら危険だ。早く逃げないとダメだ。

そう考えたと同時に、男の一人が動いた。
手には小振りの鎌。
さっきまで、そんなものは無かったはずだ。
そこははっきりと覚えている。
彼らは一様に全裸で、何も手になどしていなかった。

なのに、気づくと今3人の手には、まがまがしく鈍い光を放つそれが、しっかりと握られている。 
 
殺される。
 
本気でそう思った。
体から一気に血の気が引く。

殺される。

男達が近づいてきたのを見て、私はとっさに小屋を飛び出した。
よくも俊敏に体が反応できたと思う。
きっと無意識の行動だったのだろう。
草や砂利をふんで走る視界の端に、追ってきた男の一人が壁の大鎌を手に取るのが見えた。

何故追われているのか。何故殺されようとしているのか。
何一つわからない。
けれど、わかったところで、きっとなんの意味もないのだろう。
理由があるのなら、とっくに彼らが口にしているのだろうから。

とにかく小屋から離れなければ。
全速力で走ろうとしたが、焦りと恐怖で、何度も足がもつれた。
おかげでたった数十メートルしか走らないうちに、私は彼らに追いつかれてしまった。
 


取り囲まれ、鎌が振り下ろされる。
あまりの恐怖で、叫ぶことも出来なかった。
とっさに手近なものを掴み、身を守ろうとしたような気もするが、よく覚えていない。
薄暗い夜の闇と、草と冷たい土。
とうてい防ぎきれるようなものではなかったハズだ。

もうダメだ。
鈍く光る鎌が目の前まで迫る。
その瞬間、出し抜けに目が覚めた。


……。


「目が覚めた」という表現が正しいかは分からない。
私はまだ眠りについていなかったはずだったし、時計を見たら、時間もほとんど経っていなかった。

未だにあれが、眠っていて見た夢かそうでないのか、判別つかない。
時がたって、入眠時の幻覚は「ナルコレプシー」と呼ばれ、医学的に解説されているのだと知った。
けれどその幻覚は、ああも幻想と不可思議と臨場感をともなって、複雑に展開するものなのだろうか。
もう20年近くも前のことだし、今となっては、どちらでも良い。

時の経過と共に、あのときの恐怖も映像も、どんどん記憶からこぼれおち、今ではほとんど覚えていなかった。
たまたま荷物を整理していた時、あの頃に書き留めておいたこの記事を見つけて、ようやっと思い出したのだ。
そういえば、10年くらい前になるだろうか。
週末の夜、賑わっていた店の一角で、友だちに初めてこの話をした時のことだ。
気づいたら、私たちの周りの座席だけ、キレイに半円を描いたように、客がいなくなっていた。

まあ楽しく飲んでいるときに、隣からこんな不気味な話が漏れ聞こえてきたら、酒もまずくなるというものだ。
店を変えたくもなるのかもしれない。
もしかしたら、店にとっては営業妨害で悪いことをしてしまったかもしれない。


その夢からしばらくのち。
当時の関係者とも交流が耐え、平和で騒がしい日常が戻ってきた。
バカみたいに笑って、本当にバカをやって、たまらなく愛しくて稚拙な日々。
もう二度と戻ることはないだろう、眩しい夏の日差しのような、十代の終わり。

私のこの体験は、20代へと移り変わるめまぐるしさで、記憶の彼方へと押しやられていった。


けれど。

ただ1つ。

たった1つだけ、忘れることのできないものがある。
壊れたレコードのように、ブツブツと途切れ、耳に焼き付いて離れない。
それは、小屋に引きずり込まれた私を見て、男が放った言葉。


「久しぶりに人間が落ちてきた」
 



あれは「どこ」で、彼らは「何」だったのだろうか。

今でもこの世界のどこかで、人間の獲物が落ちてくるのを、待っているのだろうか。







●前日譚●

この不快な体験の前日のことだ。
この日の夜も、実は似たような体験をしている。


翌日ほどの強烈さはなかったが、金縛りを経てトンネルを抜けたあと、全面が幾何学模様のおかしな空間に出た。
上も下も右も左も、視界すべてが幾何学模様に輝いていた。
七色にしたクリスマスの『ルミナリエ』のイルミネーションを球体の内側に貼り付け、自分がその中央に浮いている様子を想像してみて欲しい。
幻想的で、美しくて、…そして、閉じていた。

その空間の中で、私は女の声を聞いた。
『落ちなさい』

その後、何かに引っ張られ幾何学の空間を抜け、やはり暗闇を落ちた。
どこまでも落ちた。

ついた先は、何も無い土と岩の荒野だった。
夕日に包まれるグランドキャニオンと言えば美しいが、たとえるなら「水の無い賽の河原」のようだった。

一面を覆う黒い雲の隙間から、ところどころ真っ赤な空が覗いている。
この日は、それ以上のことはなかった。

大量の寝汗とともに、意識が覚醒したのだ。


あれは本番前の小手調べ、あるいはマーキングのようなものだったのではないかと、今では思う。

Posted by  tsgmi on 07.2014 幻想現実譚   0 comments   0 trackback

夏だから怪談 その1

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それは寝入りばなのことなのか、
それとも、もう眠ってしまっていたのか…。
 
パシっと何かが空気を震わせたあと、ズンと腹部が重くなった。
大気を圧縮して固めたか、水中にでもいるかのように
腕、足、胸、首の、何もかもが重苦しい。
体中が布団に沈み込んでいくような、奇妙な圧迫感が襲ってくる。
同時にぶわっと広がるように辺りを包む「恐怖感」。

首から下をねぶるような、この得体の知れない、イヤな感覚が始まると、
たいてい「それ」はやってくる。
いわゆる、金縛りだ。

十代の多感な時期。その頃の私は、”とある案件”に関わってしまったせいで、
よくこんな体験をしていた。



w01.gif 


なんか息苦しい…。
そう思った途端のこと。

ねっとりとした何ともいえない異様な感覚に襲われ、私の体はセメントで全身を塗り固めたみたいに、指一本動かせなくなってしまった。
何とか体を動かそうと頑張るが、ぴくりとも反応しない。

目は開けない。絶対に開けない。
怖くて怖くて、必死で体中に力を込めた。
次いで、頭の中に大音響で鳴り響く、金属音。
階段の手すりを力いっぱい鉄パイプで殴りつけるようなその音は、カンカンカンと甲高い音をたて、一定のリズムで響き続ける。
この恐怖は何度体験しても慣れない。
 


すると突然、ものすごい勢いで体を揺さぶられた。
現実の肉体に起こっているのではないだろうが、シェイクするみたいに上下に激しく、がくがくと揺れる感覚がする。

私は布団の中でパニックに襲われながら、思いつく限りかたっぱしから神仏に祈った。
気休め程度のお経の断片を(ちゃんとしたの知らないので…)無我夢中で唱える。
たいていの場合は、しばらくすればおさまる。
気力・根性で解けることもある。

何年か経って、自力で解けると覚えてからは、金縛りが起こる前兆の段階で、回避することも出来るようになった。
けれどこの頃は、どうしていいかわからず、ただ翻弄され、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかったのだ。


時たま激しい揺れの勢いで、体からポンと意識が外に出されてしまうこともある。
峠を急カーブで曲がる自動車から、勢いよく放り出されてしまったような感覚、といえばわかるだろうか。
そのまま幽体離脱のように、周囲の景色が見えて、自分を見下ろせればしめたものだ。
恐怖も何もかも消え去るから。

大抵は、真っ暗闇の穴に引っ張られた。
体から引きずり出されて、何も見えない闇の底に落下していく自分だけを感じる。
そして危ういところで目が覚めることもあれば、誰かが後ろから抱きかかえて、落下する私を抱き止めてくれることもあった。
おぼれた人間を抱えて水面にむかって泳ぐように、白い羽根を持ったその人は、上に向かっていつもまっすぐ浮かび上がってくれた。
私はその存在を知っているような気もするし、知らない気もする。

ある時は、手首に巻いた”お守り”に助けられたこともあった。
体は宙に浮いているのに、片方の手首だけが布団に貼り付いて、足から引きずり出されそうになる私をつなぎ止めてくれた。
それは、護符でもなんでもない、なんの変哲もないただのアクセサリーだった。
友人が「あなたに似合いそうだったから」と贈ってくれた、デパートの雑貨店に売られている、ただのネックレスだ。
なぜか分からないけれど、それは、私にとって”お守り”だった。


もちろん、その日も身につけて寝た。
なのにどういうわけか、この日は違っていた。

何をやってもおさまらない。
どう止めたらいいかも分からない。
ジェットコースタか、ミキサーの中に放り込まれたような、激しい衝撃がたて続けに襲ってくる。
台風とか暴風雨の中で立ちつづけたら、ひょっとしてあんな感覚だろうか?

呼吸もままならず、全身をなぶられるような不快さに必死で耐えた。
あるはずは無いが、そのときは本気で窒息するのではないかとさえ思った。
相変わらず鳴り止まない金属音。
頭が割れそうなほどうるさい。

手首に巻いたはずのお守りはなんの反応も見せず。
ついに私の意識が、ポンと体から放り出されてしまった。

景色は見えない。
闇。どこまでも落ちていく闇。

ああ、こっちのパターンだ。

でも大丈夫。”いつもの人”が引っ張り挙げてくれる。落ちきる前に、助けてくれる。
落ちきらなければ、大丈夫なのだから。


………。

なんでそう思ったのかわからない。
無意識に感じ取ったのか。それともふと好奇心のように魔が差したのか。
とにかく私は思ってしまった。


「誰もいない」


助け手がいない私の体は、底知れぬ闇を、どこまでも落ちていった。



 
 

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Posted by  tsgmi on 03.2014 幻想現実譚   0 comments   0 trackback

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Author: tsgmi
はぐれ魔女。
あるいは、矛盾の錬金術師。
本業は編集デザイン。
たまに、ないると名乗ります。

ときにカード鑑定してみたり、天然石やハーブをつかって妖しげな術をしてみたり。
たいていワタシのほうが右往左往しています。何か手助けが必要な際は、遠慮無くお声がけを。

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